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富山地方裁判所 昭和41年(わ)176号 判決

主文

被告人中川宗光を禁錮六月に、

被告人勝原隆二を懲役八月に、

被告人本山義輝を懲役一年に処する。

被告人勝原隆二、同本山義輝に対し、

この裁判確定の日から三年間それぞれその刑の執行を猶予する。

訴訟費用(国選弁護人に支給した分)は全部被告人勝原隆二の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人本山義輝は本山商事の屋号で木材販売及び運送業を営むもの、被告人中川宗光、同勝原隆二はいずれも大型免許をうけ、同店に自動車運転手として勤務し、自動車運転の業務に従事していたものであるが、

第一、被告人中川は

(一)、未だ二一才に満たないのに、昭和四〇年三月二三日午后二時四〇分頃富山県下新川郡入善町古黒部一七九六番地附近道路において、車輌総重量が一万一、〇〇〇キログラム以上で、かつ最大積載重量が六、五〇〇キログラム以上の大型貨物自動車(富一せ一四四三号)を運転し、

(二)、右日時場所において同自動車を運転し、黒部市方面から同郡朝日町方面に向け時速約五〇粁で進行中、前方約六〇米の道路左側寄りを自転車に乗り強風に吹かれてふらつきながら同一方向に向け進行する春日善作(当五六年)を認め、その右側を追い越そうとしたが、このような場合運転者としては警笛により同人を左側に避譲させるとともに、同人の動静を注視しつつこれと十分の間隔を保って追い越しにかかり、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにかかわらず、これを怠り、同人が一旦後方を振りかえるが如き態度を示したことから自車の接近に気付いて左側に避譲するものと軽信し、対向して来る車輌にのみ気を奪われながら漫然進行した過失により、直前まで近接したときにはじめて同人に接触の危険があるのに気付き、あわてて急停車等の措置をとったがおよばず、自車左前部方向指示器を同人の頭部に衝突させて転倒させ、よって同人に脳挫傷等の傷害を負わせた結果、同月二五日午后一時頃富山市内県立中央病院において同人を該傷害により死亡するに至らせ、

第二、被告人勝原は同月二三日午后二時四〇分頃被告人中川の運転する前記自動車に同乗中、同人が前記第一(二)記載の交通事故を惹起したので同日午后三時頃下新川郡朝日町泊七七番地町立泊病院より富山市下奥井松若町一七六番地被告人本山方に電話をかけ、被告人本山に右事故の報告をしたところ、同人より運転無資格者である被告人中川にかわり身代り犯人になるよう教唆をうけた結果、同日午后三時過頃前記交通事故現場に赴いた入善警察署勤務の警察官神保庄作等に対し、自己が前記交通事故を惹起した旨虚偽の申告をなし、被告人中川に代って取調べをうけ、もって罰金以上の刑に該る罪の犯人である被告人中川の発見を妨げて同人を隠避し、

第三、被告人本山は前記第二記載のとおり、前記自宅において被告人勝原より交通事故の電話連絡をうけるや、運転資格のない被告人中川に運転させていたことの発覚をおそれ、被告人勝原に対し被告人中川にかわり前記交通事故の身代り犯人になるよう教唆し、被告人勝原をして右教唆に基き罰金以上の刑に該る罪の犯人である被告人中川を隠避させ

たものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(刑法第四五条後段の確定裁判)

被告人中川宗光は、昭和四〇年九月二四日上市簡易裁判所において、道路交通法違反罪により罰金一万三〇〇〇円に処せられ、右裁判は同年一〇月一二日確定したもので、右の事実は同被告人の当公判廷における供述及びその前科調書により認める。

被告人勝原隆二は、昭和四〇年一〇月二日富山簡易裁判所において、道路交通法違反罪により罰金四〇〇〇円に処せられ、右裁判は同年一〇月二〇日確定したもので、右の事実は同被告人の当公判廷における供述及びその前科調書により認める。

なお、被告人勝原隆二の前科調書によれば、同被告人は昭和四〇年六月二九日朝日簡易裁判所において業務上過失致死罪により罰金五万円に処せられ、右裁判は同年七月一六日確定したことが認められる。したがって、右確定裁判と本件犯罪とは刑法第四五条後段の併合罪の関係にあるか否かが問題となる。しかしながら同法第四五条後段の適用のあるのは確定裁判をうけた罪と確定前に犯した罪とが同時審判を受ける可能性があっただけではたりず、同時審判を受けたならば併合罪の関係に立つ場合をいうのであって、同時審判を受けても無罪その他の理由により併合罪とはなりえない場合には適用がないと解すべきである。ところで右前科調書及び前記各証拠によれば、右確定裁判を受けた罪は同被告人が身代り犯人であることを秘し自ら業務上過失致死罪を犯した犯人として処罰されたものであり、本件の犯罪はその真犯人である相被告人中川宗光を被告人勝原が身代りとなって蔵匿したという罪であるから、同一事故の犯人が前者では被告人勝原であり、後者では相被告人中川であって、両事実は相容れないものであり、もし同時審判を受けたならば確定裁判を受けた罪は本来罪とならず、本件の犯罪と併合罪とならないことは明白である。してみると右確定裁判を受けた罪と本件の罪とは刑法第四五条後段の併合罪の関係に立たないものと言うべきである。

(法令の適用)

被告人中川宗光の判示所為中、第一の(一)の無資格運転の点は道路交通法第八五条第五項、第一一八条第一項第五号、同法施行令第三二条の二第一号に、第一の(二)の業務上過失致死の点は刑法第二一一条前段、罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当するところ、右各罪は前記確定裁判を受けた罪と刑法第四五条後段の併合罪の関係にあるから同法第五〇条により未だ裁判を経ない判示各罪につき処断することとし、判示各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、道路交通法違反罪につき所定刑中懲役刑を、業務上過失致死罪につき所定刑中禁錮刑をそれぞれ選択の上、刑法第四七条、第一〇条により重い業務上過失致死罪の刑に同法第四七条但書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を禁錮六月に処する。

被告人勝原隆二の判示所為は、刑法第一〇三条、罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当するところ、右は前記確定裁判を受けた罪と刑法第四五条後段の併合罪の関係にあるから同法第五〇条により未だ裁判を経ない判示第二の罪につき処断することとし、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で同被告人を懲役八月に処する。但し諸般の情状により同法第二五条第一項を適用し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。訴訟費用(国選弁護人に支給した分)につき刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して全部同被告人に負担させることとする。

被告人本山義輝の判示所為は刑法第一〇三条、第六一条第一項、罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当するから、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処する。但し諸般の情状により刑法第二五条第一項を適用し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 栄枝清一郎)

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